青いLEDの大きな電光掲示時計だけは光っておりボウっと青白く部屋の中を照らしている。
いかんこれは停電だー、ではないか、部屋までの通路の電気はついていたではないか、ではこの部屋だけブレイカーが落ちているのだろうか今日の作業が、ガーン。
スマートフォンのカメラフラッシュをオンにしながら暗闇を進む俺。
さながら今流行?の脱出ゲームのようだ。
スタジオの奥は空調機械や配電盤、ポンプなどがひしめく機械室だった。
配電盤から出る太いパイプには「高電圧注意」の文字が。
高電圧を跨いで機械室の奥を覗くと懐かしい温水ポンプか揚水ポンプらしきものが見える。(私はかつて機械設備設計をしていたため機械室にある設備は懐かしいのであった。)
奥には何も無い、なおも高電圧の配管をまたぐ俺。
そんな俺が高電圧を体に浴び即死する絵が一瞬頭をよぎる。
いやーんこんな暗くて怖い高電圧ルームからは逃げるに限る。
壁には色々ブレイカーのオバケのようなものがひしめいているがこんなもの触れてはマンション全体の電源が落ちたり給水ポンプが止まったりして金曜日の団地に迷惑がかかってしまう。金曜日の昼下がりの団地。その真下の真っ暗な地下で俺は一体何をしているのだ。
うずらスタジオと違い、この機械室には電光掲示の時計もなく、スマートフォーンのフラッシュの明かりのみが頼りである。
ここで電話の充電が切れたら俺は高電圧に足を引っ掛け、1000万ボルトの電流により干からびて骨になった無様な屍を明日の朝カッカに発見されるのだろう。それだけは避けねばならぬ。
しかしながら聡明で快活で高学歴な俺はハッとしてグゥと気がついた、
「おや、時計は光っているではないか!」
ザッツライト兄弟!壁を見ると時計と冷蔵庫へ電力を供給している電源アウトレット差込口(2口)だけは生きているではないか。
ではこのコンセントのどちらか一つを使い延長コードでマック周りの電源を供給しよう。ほほほ。
冷蔵庫を開けると氷と水のみ、溶けても温まっても問題なさそうな別の顔した同じ奴。しかしながら氷の奴、コンビニに売っているクラッシュアイス(袋入り)ではないか。溶けてしまっては後に電源オンでデカい氷の塊になってしまう。
可能性はごく低いが、将来始まるかもしれないうずらスタジオでの大宴会の際、ビールを飲み干した俺たち、カクテルや焼酎水割り、ジンライムなどを飲みたくなりクラッシュアイスを欲するのは目に見えている。そこであんなオバケ氷を発見しては都合が悪い。一体誰のせいだ、となり、魔女裁判の結果見せしめとしてジンジンが罰せられるだろう。
そのような状況を避けるため、打破するために俺は電光掲示時計のコンセントを抜いた。
感動に涙を流しながら俺、とりあえず延長コードをこちらに差し替え、マッキントッシュとオーディオインターフェイス、ミキサーとアンプに電源を供給する。
ぼやと光るマッキントッシュのモニターの明かりでなんとか作業はできそうだ。
ちゅかちょっと暗すぎる。なんかやだよ。
そんな時俺はふとこのうずらスタジオ内で電源分岐タップを見かけたことを思い出した。
アレを使って電光掲示時計にも電力を供給してやれば背中に仄かな青い光、眼前にはマッキントッシュのモニターライト。本も読める。作業効率をあげるのに努力を惜しまない俺は分岐タップを探し始めた。
ボーカルやギターブースに使っている隣の小部屋に行ってみる。部屋の隅もデザイヤで希望の光で照らすも見つからず。ここでゴキブリとか出てきたら死ぬと思いながら死にたくないと生還。
スタジオ内本棚の中など見てみるも過去にこんなところ俺見たことあるだろうかと思い案の定見つからず。
最後に開けた流し台の下の扉の中に発見。チャリーン、アイテムゲット。ますますもって脱出ゲームのようだ。
なんか眠い。つて、ソファーで仮眠しよう。
なんだよー数年ぶりに金縛りだよー!
うーうーと声を出すも口からは出ず、手足カッチカッチ。
すると枕元に人の気配。んなわけないかー。怖すぎるやろそれ。
思えばなんだかこんな暗い中、機械室に囲まれた(というか元機械室の)部屋で一人で無防備にソファで寝ていることが妙に怖くなってきた。
これまで考えたことなかったがこの部屋にオバケとかいるかも知れない、いや絶対いる、俺はなんてところに足を踏み入れてしまったのだ!
つて、夢うつつ+金縛りの状態の妙な思考回路で妙に怖くなってきたっす!妙だよ!絶対オバケいるっしょ!!
床の青白い光に浮かぶ影に、なにやら枕元ちゅか、ソファー元に立つ何者かの手が動いているのが見える。
よく見る指をポキポキ鳴らしてる動きっすね。ははは。
ヒエー!コエー!
いやんいやんいやんと思いながら俺、手足をうんこらうんこらと動かそうと頑張る。頑張れ俺!
するとがくん!と足が動いて、わーい開放されたー、さっきの影も夢だな、はははー全然怖くねーわーいわーい、つてそのまま寝ました。あーさっきは怖かった。
「はっ。ついてる。」きっと僕はその時そう言ったはずです。なぜなら電気が付いていたからです。
なんかわからんが直った。明るいの最高!これからはネアカに生きよう!つて、作業再開っす!
明るさって必要だね。こんな不況で真っ暗な日本(の片隅の地下室)で久しぶりに聞いた明るい話題。いいですね。心がホッとしますね。心がほっとステーション。
振り返り電光掲示時計を見ると、あいつも消えてる!ガガガーン!
あいつだけは大丈夫と勝手に思ってた、寂しい暗い俺の心の闇を支えてくれていたあの時計まで電源落ちてるってことが俺はなんだかとてもショックだった。頼みの綱が切れたってこういう気分なんだね。
もう誰も頼れるやつはいないんだね。俺は一人で生きていかなきゃいけないんだね。
シクシクシク。シクシクホーシシクシクホーシ。10月だよ。秋だね。肌寒いね。